★保険&年金基礎知識〜保険料率改定のしくみ その2〜
●公的医療保険その種類と保険者(運営元)
公的医療保険、といっても種類は様々です。
以下に公務員等以外の公的医療保険と保険者(運営者)を列挙しますね。
保険制度 保険者
政府管掌健康保険 政府
組合管掌健康保険 健康保険組合
国民健康保険 市町村及び特別区
組合管掌国民健康保険 国民健康保険組合
船員保険 政府
介護保険 市町村及び特別区
ここでは大部分の方に関係が深い、健保、介護保険に的を絞って
お話していきます。
特に政府管掌の健康保険は、国の「医療制度の基本」と位置づけられて
いますので、メインにお話します。
大雑把に言ってしまうと健保は政府管掌(つまり国)と大手企業等が自社で
面倒を見ている、そして国民健保と介護保険は市町村が主体となって面倒
を見ているということになります。
●医療保険の保険料改定の前に
日本の医療保険制度は危機に瀕しています。
理由は、急速な高齢化社会への進行に伴う老人医療費の伸び、そしてそれに
つれて医療費総額の増大で赤字幅は大きくなる一方です。
8月24日に厚生労働省が発表した平成17年度国民医療費の概況では、
平成17年度の国民医療費は33兆1289億円、前年度の32兆1111億円に
比べて1兆178億円、3.2%増加。
国民一人当たりの医療費は25万9300円、前年度の25万1500円に比べ
3.1%増加。
国民医療費の国民所得に対する比率は9.01%(前年度 8.85%)です。
国民医療費は増加の一途をたどっており、このままで行くと、18年後には
国民医療費は倍以上の69兆円、国民医療費の国民所得に対する比率
も13.2%になるとの試算があります。
この中で、政府は医療保険制度改革を平成18年度から実施、保険給付
の見直し等を実施しています。
また、介護保険、老人保健制度も見直し高齢者の予防医療にも注力して
はいます。
しかしながら、国民医療制度の目的は「国民の健康」のはずですが、この
医療制度改革によって弱者である高齢者、生活困窮者への保険給付縮小
のひずみが出てきています。
高齢者の窓口負担増は瀬戸際で凍結が決まりましたが、長期療養病床の
削減(→老人保健施設、介護保険による在宅介護への移行)等の
高齢者に対する医療費削減はすでに始まりました。
●国民医療費の財源は?
財源別にみると、国民医療費33兆1289億円のうち、公費分は12兆610億円
(36.4%)、保険料分は16兆2893億円(49.2%、事業主と被保険者負担)、
患者負担4兆7572億円(14.4%)となっています。
●医療保険制度の保険料率改定のしくみ
医療保険制度を主に支える保険料、その改定は財源維持にとって大きな
問題です。
ここでは、メインの政府管掌健康保険料の料率及び介護保険料の
料率改定のしくみをお話します。
健康保険組合は、保険者である企業、また国民健康保険も保険者である
市町村等の財政状況によって保険料率及びその改定は微妙に異なります。
・健康保険料の料率の改定
健康保険料の料率を決めるのは、厚生労働大臣です。
厚生労働大臣は、入ってくるお金(保険料等、国庫補助、事業運営安定
資金の運用益)と出て行くお金(保険給付、退職者給付及び
老人保健制度への拠出金、各種保険事業等の運営資金)のバランスを見て
保険料率を決めます。
この見直しについては社会保険庁長官が行い、バランスを失している
(入ってくるお金が少ないなとか)というときには、長官からの申出を受けて
厚生労働大臣が社会保障審議会に諮問して保険料を変更します。
政府管掌健康保険の場合、料率の変更は1000分の66〜1000分の
91の範囲内でと決まっています。
平成19年現在の健康保険料率は1000分の82です。そして40歳以上
の人(介護保険第2号被保険者)が負担する介護保険料は
1000分の12.3です。
あわせて1000分の94.3=9.43%ということになります。
この料率を標準報酬月額、標準賞与額に掛けた金額を事業主、本人で
折半して支払うということになります。
・介護保険料率の改定
まずその前に介護保険のおさらいを。
介護保険は平成12年に創設された市町村等が主体の医療保険を支える
制度で、40歳以上の医療保険加入者が被保険者とされています。
65歳以上 介護保険第1号被保険者
40歳以上 介護保険第2号被保険者
ということになっています。
つまり、40歳以上で、健保、国民健保等に加入している人は合わせて
介護保険にも加入している、ということです。
そして、65歳以上で要介護、要支援状態となったときに保険給付を受ける
ことが出来るというわけです。
・第1号被保険者の保険料率
出て行くお金(介護給付や各種事業の予想額、借入金の償還等)と
入ってくるお金(第1号被保険者の保険料収入、国庫負担等)を勘案し
3年は財政のバランスが保てるよう市町村の条例で決めます。
・第2号被保険者の保険料率
政府管掌健康保険の場合
介護納付金(介護保険へ健康保険から納めなければないお金)の額を
健康保険の被保険者の保険料収入の総額で割った数字を基準にして
健康保険の保険者である政府(=厚生労働大臣)が決めます。
●西尾の解説
平成19年度の厚生労働白書を読むと、その最初に医療制度改革の
項があります。
これまでの医療制度の道程、そして生じた問題、今後の展望と続いています。
これを読むと、医療行政も農政と一緒で、今後こうなるからそれにどう対応
するかということが主眼となっています。
少子高齢化が進むことで、介護が難しい状況になるから、予防医療、終末
医療(特に在宅医療)の充実が必要ということを厚生労働白書では謳って
います。
しかし、現在勤務医の多くは医師数の不足から過重な勤務をこなし、
高齢長期療養者はベッド数の不足から退院を迫られ、老齢単身で帰宅
しても介護する人もいなくて困り果てているという状況もあります。
現在の医師不足は、2004年4月にスタートした「医師臨床研修制度」、
そして1982年閣議決定された医師養成抑制政策のダブルパンチが招い
たものです。
将来こうなると思うから!
ではなくて、ヴィジョンをしっかり持った上で、政策及び施策を積み上げていって
欲しいと思います。
「この世に生を受けてから、その生を全うするまで不安のない医療制度」
ということを第一に考えたら、現在の病院からの高齢長期療養者の追い出し、
産婦人科医の不足による出産救急のたらい回しなど考えられないと思います。
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