★保険&年金基礎知識〜保険料率改定のしくみ その3〜
●雇用保険料率の改定
雇用保険の料率は一律ではありません。
一般の事業
農林水産、清酒製造業(酪農、園芸サービス、水産養殖等は一般に含む)
建設の事業
の3つに分かれています。
そして、保険料率の改定ですが、改定をするのはやはり厚生労働大臣です。
会計年度末の雇用保険の積立金の額が、その年度の失業等給付の総額の
2倍を超えた場合、またはその年度の失業等給付総額を下回った場合、
労働政策審議会の意見を聴いたうえで、雇用保険率を変更します。
つまり変更するのは
雇用保険積立金>失業等給付総額の2倍→雇用保険料率を下げる
雇用保険積立金<失業等給付総額→雇用保険料率を上げる
ということです。
その範囲ですが以下のようになっています。
一般の事業 1,000分の17.5〜1,000分の21.5
農林水産、清酒製造業 1,000分の19.5〜1,000分の23.5
建設の事業 1,000分の20.5〜1,000分の24.5
実際の事例をご紹介いたしますと
平成18年度の雇用保険料率
一般の事業 1,000分の19.5
農林水産、清酒製造業 1,000分の21.5
建設の事業 1,000分の22.5
でした。
平成19年4月からこの保険料率が引き下げられ以下のようになりました。
一般の事業 1,000分の15
農林水産、清酒製造業 1,000分の17
建設の事業 1,000分の18
この負担ですが、雇用保険は健保や厚生年金とは違って会社と被保険者の
折半負担ではありません。
雇用ニ事業(*)については事業主のみが負担すると決まっていますので
この分を差し引いた残りを会社と被保険者が折半負担するのです。
一般の事業を例に取りますと
雇用保険料率1,000分の15ですが
雇用ニ事業分1,000分の3+1,000分の6=1,000分の9
事業主負担
1,000分の6 被保険者負担と言うことになります。
*平成19年3月までは雇用三事業だったのですが、雇用福祉事業が
廃止され雇用安定事業、能力開発事業の「雇用ニ事業」となっています。
●労災保険料率の改定
労災の保険料率を決めるのもやはり厚生労働大臣です。
労災保険の適用を受ける全ての事業の、過去3年間の業務災害、
通勤災害、二次健康診断に要した費用、労働福祉事業(被災労働者の
社会復帰、援護や安全衛生に関する事業等です)に要した費用等を
考慮して決定しています。
平成17年度までは、51の事業毎に保険料率が定められ
最低 その他の各種事業 1000分の5
最高
水力発電施設、ずい道等新設事業 1000分の129
*水力発電施設はダム、ずい道はトンネルのことです。
でした。
が、平成18年度から労災保険料率が見直され、54の事業で
最低 その他の事業の通信、放送、出版、新聞金融、保険、不動産業の
1000分の4.5
最高 水力発電施設、ずい道等新設事業 1000分の118
となりました。
この保険料は会社が支払うもので、労働者の負担はありません。
ですので、労災は「保険」ではありますが、保険料を支払っている人が
給付を受けるという制度ではないので、「被保険者」という概念はありません。
そして、この労災保険の保険料率の改定のしくみ、これで終わりでは
ありません。
ある一定規模以上で、一定要件をクリアした会社の場合、過去3年間の
収支率(大雑把に言うと支払った保険料に対する保険給付の割合)
によって、保険料率が40%の範囲内で引上げられたり引き下げられたりする
メリット制という制度があります。
●西尾の解説
よく「労災隠し」という、事業主による犯罪が問題化しているケースがあります。
事業主が、労災を申請すると保険料が高くなるから!と言う理由で労災の
申請を渋ったり、拒否したりするケースです。
この「労災隠し」ですが、メリット制を誤解しているケースもあるようです。
*勿論、建設業界等の「労災隠し」はメリット制だけが原因ではありませんが。
20名を超えない事業であれば、そもそもこのメリット制の対象になりませんし、
20名以上100名未満でも、一定の危険率の高い会社が対象です。
100名以上の従業員を抱える会社は、メリット制の対象にはなりますが、
通勤災害は含まれませんし、深刻な大規模業務災害でない限り保険料率
が大幅に高くなったりはしないと思うのです。
それより、一所懸命働いたのに労災を認めない事業主さんでは、従業員の
士気の低下を招きます。
そこを事業主さんにはお考えいただきたく思います。